麗華との約束の店には十五分前に着いた。

 届いたコーヒーをひと口飲み、今日のフライトを振り返る。

 ロンドン・ヒースロー空港は風が酷かった。ダイバート(目的地変更)にならずに済んだが、管制からの報告は横風制限値ギリギリ。タイミングによってゴーアラウンドを余儀なくされたシップもあった。

 空は生き物だ。どれほど下調べをしても実際に飛んでみないとわからない。あらゆる不測の事態を想定し、厳しい訓練をしてきたゆえに動揺はしないが、やはり疲れる。

 さらにコーヒーを口にして、細く息を吐いた。

 暮れなずむ通りに目を向け、そのまま空を見上げたが視界に飛行機はない。

 思えば十歳のあの頃から、気づけば空を見上げ飛行機を探していた。コックピットにいる父に憧れ、パイロットになることしか考えていなかった。

 麗華を助けたときも飛行機が飛んでいたのを覚えている。