湖山さんが呆れるのも無理はない。俺だって信じられない。たったそれだけでできたしがらみが、二十年後まで続くとは思いも寄らなかった。

「麗華も大人になれば忘れると信じてたんですが」

 彼女の両親が、神城との縁組をこれ幸いに望んだのもあるだろう。神城の力は大きい、俺が湖山の姓を受け継ぎベンタスの代表になるという道筋まで勝手に描いた。

 湖山さんが大きくため息をつき、かぶりを振る。

「麗華とはもう何年も会ってないが、あいつは子どもの頃から甘やかされすぎだ。伯父さんも伯母さんも二つ返事で麗華の言いなりだから」

 身に覚えがあるのか、束の間彼は考え込んだ。

「とにかく、麗華との結婚はありえません。彼女がまだ納得しないようなら、しかたありません。弁護士に任せるつもりです」

 苦笑した湖山さんは、何度もうなずいた。

「当然だ。よくわかったよ。なにか困ったときは言ってくれ」

「ありがとうございます」

 力強く頷く彼の笑顔は心強いが、自分の問題である。

 彼の手を煩わせず、なんとかするしかない。