まっすぐオフィスに向かい、ロッカーで着替えていると、湖山キャプテンが遅れて入ってきた。

「お疲れ」

「お疲れ様です」

 フライト前はストレスを避けたくて言えなかったが、今なら言える。

「これから麗華に会って、もう一度はっきりさせてきます」

「そうか。俺も家の親にあらためて伝えておく」

「よろしくお願いします」

 湖山さんは大きく頷く。

「ところで、聞かせてくれないか? 許婚になるきっかけが、なにかあったんだよな?」

 ちょうどいい、彼には事の真相をわかっていてほしいと思っていた。

「原因となったのは――」

 記憶を遡りできるだけ正確に事実を伝えた。

 俺が十歳の頃。場所は麗華の家の別荘の庭。麗華と俺は池のほとりにいて、池に落ちそうになった彼女を助けた。たったそれだけだ。

『こーおにいちゃんのおよめさんになる!』

「子どもの言うことなんで、母親同士がその気になって」

「たったそれだけで?」