「どうぞ」

 頭を抱えたくなる思いで、カウンター席を勧める。

 店内にお客様は数人いるが、接客が必要な雰囲気の客はおらず、アルバイトの晴美さんもレジの横に立ってお客様たちの様子を伺っている。

 カウンターの中で彼と話をしても、今なら問題はなさそうだ。

「コーヒーでよろしいですか?」

「ありがとうございます。素敵な店ですね」

 他愛ない会話からスタートする。

 表情も話し方も穏やかな雰囲気を漂わせる男性だ。母に見せられた写真では旅館の若旦那らしく和服だったが、今日はグレーのセーターにスラックス。上から黒っぽいコートを羽織るという服装である。

 実物の彼は、私よりもひと回り以上年上というだけあり、とても落ち着いて見えた。

「今少しお話ししていて大丈夫ですか?」

「ええ。もしお客様が増えてきたときはすみません」

 彼は唐突に「実は」と話し始めた。

「わけあって」

 んっ?

「もしよろしければ、あなたのお子さんを、僕の子どもとしていただければ、ありがたいと」