私とゆうれいにクルッて背中を向けてニカが歩き出す。

待って、って喉の先まで出かかった言葉を音にすることができなかった。

次々と流れてくる涙をゆうれいの手が拭おうとした。

その手が私の頬に辿り着く前に、
ゆうれいの手首を掴む。

「ゆめ…?」

「ゆう………れい………」

私が指さしたほうをゆうれいが目を細めて見つめる。

暗くて、雨も降っているからよくは見えなくなってしまったけれど。

立ち止まって、こっちを振り返ったニカ。

白地の傘。
メーカーのロゴなのか、施された虹のマーク。


「ゆめ、アレ…」

「夜の虹…」

再び歩き出したニカを、今度こそ引き留める術を私は持っていなかった。

ニカの傘の上で、歩くニカの振動に合わせて揺れる虹が涙でかすんでいく。

あの日、屋上でゆうれいと約束した。

もしも夜の虹とかメルヘンみたいな奇跡が起こったら一番にゆうれいに見せてあげたいって。

あの日も今も、変わらずにどうしたって私はかっちゃんのことを好きなままだけど、

ゆうれいと交わした初めてで、唯一の約束が、
どんどん、どんどん私達から遠ざかっていく。

「ゆめ…ゆめ、ありがとう。ありがと…ごめんな………バイバイ」