雨でぐちゃぐちゃになりながら交わしたキスの感触をまだ忘れていなかった。

それは確かにゆうれいの体温で、仕草のひとつひとつ、どれをとってもゆうれいなのに、

優しかった頃のかっちゃんが、
大丈夫?って困ったように笑いかけてくれるかっちゃんの顔が次々に浮かんではシャボン玉みたいに消えていった。

雨がピタッとやんだ、って思った。

見上げたら空は無くて、白地に、そのメーカーのロゴなのか、ワンポイントの模様。
私とゆうれいの上に傘が広げられていた。

そのロゴを見つめながら涙が溢れ出す。

「ニカ…」

「なにやってんの?」

「ニカちゃん」

「なにやってんのって聞いてんの」

私とゆうれいを見下ろしているニカ。
怒りに満ちた目。広げられた傘のおかげで雨はやんだのに、ニカの視線が針のように降り注ぐ。

「ニカ…なんでここに…黒崎くんは?」

「昨日、怜から連絡もらって居ても立っても居られなかった。二人が会うなら風の家だって思った」

「だから来てくれたの…?」

「ねぇ、結芽」

「分かってるよニカ…もう分かってるから」

「分かってるんなら尚更言うね。まだ怜とそんなことやってたの」

「ニカちゃん。これは俺が無理矢理…」

「軽蔑する」

「ニカ…」