私を抱きしめるゆうれいの体が震えている。
寒いからか、感情の激しさかは分からない。

怒りも絶望も全部溶け合って、でも私達はやっぱりひとつにはなれない。

ゆうれいが私にむけてくれる愛情や絶望、苦しみ、わずかに残る恋のきらめきを、私のその感情はゆうれいには向けることができなかったから。

「なんで風が好きなんだよ」

「もうそんなんじゃ…」

「ゆめ…分かるんだよ。分かりたくなんかないのにさぁ…。そんな目に遭ったってまだ風のこと想ってるって。ゆめが最低なら俺だって最低だろ?」

「ゆうれいは最低なんかじゃない。優し過ぎて…私はずる過ぎた」

「最低なんだよ。風のこと、俺だって大切で大好きな親友だった。でもどうしても…」

「ゆうれい?」

触れそうになるゆうれいのくちびるを拒む。

ゆうれいはギュッとつむった目をゆっくりと開けて、私の頬に触れた。

「あーだめだな。頭変になりそ。…抱きしめるだけもだめ?」

「もうずっとしてるじゃん…」

「やっぱずるいよ、ゆめ…拒むなら何もかも完璧に拒んでよ」

「…」

「どうしてもさ、ゆめさえ居ればいいって思っちゃうんだ。何を犠牲にしても。何もかも失くしても。そんなに周りがゆめを苦しめるなら二人だけでどっか遠くに逃げてもいい。俺が居るのになんで…俺と居るとゆめは苦しむんだよ」

「一緒に居たら苦しむのはゆうれいだよ。私…本当におかしいのかもしれない。なんでこんなにも想ってくれてる人を世界で一番傷つけて…私に消えて欲しい人じゃなきゃだめなんだろ…。やめたい…もうやめたいよっ…全部消してよっ………」

後頭部に回された手のひらをもう拒むことができなかった。
無理矢理、噛みつくように交わされたキス。
また降り出した雨の中でゆうれいがかき消されそうな声で言った。
震えていた。この世の終わりみたいな声を、誰よりも、守っていいのはもう私じゃない…。

「忘れるほうが苦しいんだよ」

「うん…」

「利用されてもめちゃくちゃに心を壊されても。大好きなひとを忘れてしまうことが一番怖い。だから…」

「うん………」

「ごめんな。ゆめが風を本当に…本当に忘れられるくらいの男になれなくて」