「かっちゃん、私に復讐したかったんだって」

「復讐?」

「知ってた?」

「何を…」

「ゆうれいもずっと私に嘘ついてたんだね」

「嘘って…」

「入学式の日、私達…はじめましてなんかじゃなかったよね?」

「ゆめ…」

「ごめんね。ずっと忘れてて。かっちゃんに聞いたの。受験の日、こころちゃんはゆうれいに救われて恋をした。同じ教室の中でかっちゃんはこころちゃんに一目惚れした。私は絶対にかっちゃんと離れたくなくて何がなんでも合格しなきゃいけなかった。参考書ばっかり見てたからゆうれいのこともこころちゃんのことも知らなかった」

「ゆめ、知ってた…?あの日のゆめは髪の毛が肩の下くらいまであって、ツインテールにしてた。左右のヘアゴムの色が違ったんだ。受験の日にまさかわざとじゃないよなって気になって。中学、セーラー服だっただろ?リボンの長さも左右非対称でさ。よっぽど焦ってるんだなってなんかおかしくなって」

「そんな恥ずかしいこと憶えていないでよ…」

「可愛いなぁって思ったんだよ。こんなに切羽詰まってないとき、この子はどんな声でどんな顔で笑うんだろうって気になってしょうがなかった。入学式の日、いきなり″ゆうれい″なんて呼ばれて…。あー、やっぱりこの子、変わってるって。でもその瞬間にゆめの中で俺が特別になれたみたいでうれしかった」

「そんなことで特別感じないでよ…」

「市原さんのことは本当に憶えてないんだ。無意識だったんだと思う。あの日から自分でもびっくりするくらい俺の中はゆめで満たされてた」

「でもね…私がかっちゃんに執着しすぎちゃったから、意地でも同じ高校にまで入っちゃったから私はかっちゃんの恋を邪魔してたの」

「そんなのゆめのせいじゃないだろ!?」

「私だってそう思いたいよ…。でも…」

冷え切った体が真冬の外気に晒されて、呼吸を整えるのもツラくなってくる。
このまま立ち上がれなくなってここで死んでしまっても…私はどこにも必要ない人間だからもういっかって諦めさえついてしまいそうだった。

「でも?」

「私があの教室にいなければゆうれいとも出会わずに済んだ。ゆうれいにはこころちゃんとの出会いが鮮明に残ったかもしれない。そうしたらかっちゃんは失恋しちゃうかもしれないけど、親友と潔く勝負できるのならそのほうがよかったよね。私の存在がみんなの恋をめちゃくちゃにしたの。かっちゃん、言ってたよ」

「何を…」

「こころちゃんとの恋を守りたかった。でも、ゆうれいも大切な親友だって」

「それは俺だって…」

「その親友を利用して突き放して、壊した私のことをかっちゃんは許せなかった。だから私がしたやり方でおんなじように私を利用して、こころちゃんとの思い出で私に復讐したかったんだって」