ゆうれいの両手に頬を包まれる。

くちびるの端をかすめていくくちびる。

ちゃんと、キスをされてしまう手前でゆうれいの体を押した。

「消さないでっ…」

どこかの知らない人の家。
外壁に押しつけられるようにして、ゆうれいの腕の中に閉じ込められる。

ズルズルと腰からちからが抜けていく。
座り込んだ私を抱きかかえるようにして、ゆうれいは私を逃してくれなかった。

雨で地面もずぶ濡れなのに、
コートを着ていない、パーカーだけのゆうれいもすごく寒そうなのに、
しゃがみ込んで私を抱きしめたまま、私のくちびるをゆうれいの温度に変えていく。

「やだっ…消さないで!お願い…消さないでってば…」

「やだ。風のことなんて全部消すから」

「ゆうれいっ…!変えないで…」

「変えてないよ。戻してるだけ」

「なんで…なんでこんなことすんの。もうやめようって言ったじゃん!もうだめなんだよ」

「俺が離れたってもっとだめになってんじゃん!」

「こんなことしてたからだよ…。ゆうれいとこんな風にならなければ…私がまともだったらかっちゃんのこと守れたかもしれないのにっ…!」

ずぶ濡れのまま私を抱きしめ続けるゆうれいの体温も、もう分からない。

春。二人で海に飛び込んだ日。
あの日も今日と同じようにずぶ濡れだったのに、あの日は不思議とゆうれいのあったかい体温を感じた。

今はもう冷たくて苦しくて…呼吸の仕方を忘れそうなほどに胸が痛い。

「風と話したんだ。昨日の夜」

「なんで…」

「ゆめを幸せにしてあげてって。ゆめの絶望を消してあげたかったのに俺の存在はもっとゆめを苦しめただけだった。だから今度こそゆめに幸せになって欲しかった」

「かっちゃんは…?」

「ゆめにお返しをするんだって…」

「お返しって…」

「おかしいって思ったんだ。だからニカちゃんにも連絡した。ニカちゃんもなんとなく気づいてたよ。二人が元に戻ったのは″親友″のままじゃないって。だからもしかしたら二人がクリスマスに一緒に過ごすなら風のうちかもしれないって…」

ゆうれいが空を見上げた。
雨が小降りになっていく。
ゆうれいの頬を伝う雫が雨なのか涙なのか分からない。