「きれいな貝殻ないかなー」なんて言いながらゆうれいはしゃがみ込んだ。

砂利や石とぶつかって、ギザギザになったり欠けてしまってる貝殻ばっかり。

適当に砂を掴んで波に流したりしているゆうれいが、本気で貝殻を探しているようには見えない。

「私だってやだよ」

「んー?」

「私だってドキドキしたりキュンってしたり、毎日かっちゃんに会うのがうれしくて、毎日ニコニコしてるだけがいいよ」

「できないの?」

「できない」

「なんで」

ゆうれいは見つめていた、足元で寄せては返す波から顔を上げたけれど、突っ立ったままの私のほうは見ないで、遠くの水平線を眺めているみたいだった。

「嫉妬しかしない。今は…」

「嫉妬?」

「分かるでしょ?毎日毎日嫉妬しかしないよ!なんで私じゃだめだったの…私とのほうが思い出は多いのに。私…絶対に誰よりもかっちゃんを想っていられるのに…」

「…それが、風は市原さんじゃなきゃだめなんでしょ?恋はしょうがないよ。コントロールできるもんじゃないからさ」

「…」

「ごめん…」

私のほうをやっと振り返ったゆうれいが、今度はギョッとした顔になった。

ローファーも靴下も脱ぎ捨てて、私は海に飛び込んだ。

腰の辺りまで浸かるところでザブンって思いっきり頭の先まで潜る。

なんにも聴こえなくなる。

とっくに陽も落ちていた。

怖くなんか全然なかった。
このままどこまでも沈んでしまってもいいとさえ思った。

でもできない。
死にたいわけじゃないし、
酸素を求めてすぐに水面に浮き上がってしまった。

すぐそばまで来ていたゆうれいに腰を掴まれて、波打ち際まで引っ張っていかれる。

水中だからか、ゆうれいのなんの感触もしなかった。