ギュッと抱きしめられて、首筋にかっちゃんの吐息がかかる。

すぅ…って息を吸って、かっちゃんが離れた。

「これ、匂い邪魔だな」

フゥってかっちゃんが吹きかけた息でキャンドルの炎が揺れて、消えた。

ほんの少しの火薬っぽい残り香とうすくなっていく甘ったるい香り。

私を見ていないような眼差しでまばたきを繰り返したかっちゃんがもう一度抱きしめてくれて、耳元で囁いた。

「こころ…」

「………ゃっ!!!」

ドンってかっちゃんの体を強く押した。
私が払いのけたかっちゃんの腕がテーブルにぶつかって、ティーカップが倒れた。

テーブルのふちを伝って、ポタポタと紅茶がラグに滴っていく。

なんにもない、なんの感情も読み取れない、鉄仮面みたいな顔。

名前を呼び間違ったとかそういう焦りも感じない。
慌てて弁解しようともしない。

かっちゃんは、わざとやったんだ…。