「あれ…ゆめ?」

「ゆうれい?」

階段でゆうれいとバッタリ会った。
そういえばまだ教室にゆうれいの鞄が残っていた気がする。

「帰んの?」

「うん。ゆうれいは何してんの?」

「担任の呼び出しー」

「えー、終業式なのに?」

「テストは悪くないけど授業の欠席が多いから内申点落ちてるって。三学期もこれだとヤバいってさ」

「うわ。ゆうれいサボり過ぎだよ」

「三学期頑張ったら褒めてくれるー?」

「またそういうこと言う。もう冗談じゃ済まないんだからね?」

「そうですよね。風が怒っちゃうもんな」

「は…?かっちゃん?」

ゆうれいが八重歯を覗かせた。
目は笑っていない気がする。

なんとなく、背筋を伸ばしてしまった。
さっきまで先生にお説教されていたであろうゆうれいに、今は私が叱られているみたいだった。

「気づいてないと思った?」

「なにが?」

「見てれば分かるよ。だから誤魔化さなくてだいじょうぶ」

「ちょっと…言ってる意味が分かんないよ」

「うそ。分かってるくせに。…じゃあはっきり言ってあげるね?どう?風の彼女になれた気分は」

ドサッて落としてしまった鞄を、ゆうれいが拾い上げた。

はい、って渡してくれながらゆうれいが私の首筋に触れた。

ビクって肩が震えて、ゆうれいから一歩、距離を置いた。

「くやしいな。全部消えちゃうんだね。俺とのこと」

ハスキーがかった声で呟いて、ゆうれいは階段の残りをのぼっていった。

金縛りにあったみたいにそこから動けなかった。

なんでだろう。
ゆうれいには一番、知られたくなかった気がしてしまった。