図書室のカウンターでかっちゃんが鞄から本を取り出した。

「なんの本?」

「これ」

有名な文豪の、有名なタイトルだった。
内容は知らない。教科書にも載っていないやつだった。

「かっちゃんってそういう小説好きだったっけ?」

「こころに勧められたんだ」

「へぇ…」

「“この人、ロマンチックな恋も書けるのよ”って。あんまり読んでないけど」

「やっぱ活字苦手なんじゃん」

「バレたかー」

本を図書委員さんに渡して、かっちゃんはまた本棚のほうへ進んだ。

「またなんか借りるの?」

「んーん。滅多に来ないし。物色」

何列か並ぶ本棚の途中で女子生徒が二人、並んで選んでいた。

その隣の棚のほうに入っていくからついていった。

「面白そうなのあった?」

聞いた私の肩を掴んで、かっちゃんがキスをした。

「ちょっ…」

棚の一部の本が抜けていて、向こう側が見える。
ちょうど私の胸の高さらへん。

「もっかい?」

「見えちゃうよっ」

「しゃがまなきゃ見えないよ」

ウィスパーボイスで喋る私達の行為に向こう側の女子達は気づいていない。
探していた小説家の新刊がまだ入っていないってブーブー言っている。

「なんで…かっちゃん」

「こういうの憧れてたでしょ?」

「そんなこと…!」

「こころにもしなかったこと、結芽とはしたいなぁ」

腰から両腕を回されて、かっちゃんの体に私の体を引き寄せられる。

激しくない、優しいキス。
なのに手がブレザーの下に入り込んで、シャツの上から背筋を撫でられる。

足のほうからゾクゾクと何かが張ってくる感覚がした。