「私を?好きになるの?」

「結芽が可愛いこといっぱいしてくれたらね」

「憎くないの?」

「だいたいこころが俺を好きにならなかったのは結芽のせいじゃないだろ」

「それは…」

「もういーから。どうする?やめとく?」

「やだっ!」

咄嗟に言葉が口をついて出て、手のひらで口を押さえた。

その手をかっちゃんが握って、グッて引っ張られて、かっちゃんのほうに体ごと寄せてしまった。

「かわいい。ヤなんだ?」

「だって…」

「まだ好きでいてくれてる?」

「好き…だよ…」

「じゃあ早く忘れさせて欲しいな。可愛いことしてくれる?俺の彼女さん」

ニコって微笑むかっちゃんの瞳に吸い込まれてしまいそうだった。
目をギュッとつむって、私からかっちゃんにキスをした。

後頭部に大きい手のひらを回されて、反対側の手で腰をグッと引き寄せられる。

ゆうれいとは違う、くちびるの感触。
まだ脳内のまともな部分で、確かに愛情があったのはゆうれいだったって理解しているくせに、
感情のイカれた部分が幸せを感じてしまっている。

かっちゃんはきっと私を好きになってくれる。
そのうちに周りも認めてくれるようになるまで乗り越えよう。

本気でそう誓えるくらい、私の心はかっちゃんを好きなままだった。

「ありがと。好きでいてくれて」

「うん」

「ドキドキするな。内緒の恋人」

「変な言い方されると余計にドキドキする」

「ずっとドキドキしてて」

この人もきっと天使なんかじゃない。
それでも本当に好きになってもらえたら。
そんな奇跡くらい信じたい。

私の中の、ゆうれいの温度が消えた。
もう引き返せないくらい、私はクズだった。