「ね、海行かない?」

ゆうれいが私から離れて、背中側から正面に来た。

「海?」

「白浜行こうぜー」

私達の地元は港町だ。
海外からの客船が入港することも珍しくない。

ゆうれいが言っている白浜は通っている高校からバスに乗って三十分くらい。
高校のある街中とは違って、山や川がグッと増える。

夏には海水浴場として開放される″白浜″の正式名称を、友達の誰も知らない。

「まだ四月だよ?早すぎるって」

「泳ぐわけじゃなくてー。なんか海を見たい気分なんだよー」

「いつも見てるじゃん」

「ゆめとゆっくり見たいの。だめ?」

ゆうれいは自分のチャームポイントを理解しているって思った。
元々こんなに顔がいいのに、甘える表情をされてしまったら断れる女子はいないんじゃないかって思う。

そんなゆうれいにはさすがに慣れてしまった私だけど、
今日はゆうれいのしたいことに付き合ってもいいかなって思った。

実際、ゆうれいの言う通り、私は拗ねていた。

かっちゃんと二人でお出掛けなんて私はしばらくしてない。
時間さえあれば私じゃなくて迷わずこころちゃんを誘うだろうし。

そんな私をゆうれいが元気づけようとしてくれていることも分かっていたし、
誰かと一緒に居たかった。

それがずるくても。
ちょっとくらいなら甘えてもいい…よね?