「怜には本当に恋愛感情はなかったの」

「うん」

「本当に風のことを一瞬でも忘れるためだけに利用したの」

「うん」

ニカがフェンスに後頭部をつけて空を見上げた。
青の色がうすい空。
肌寒いけれど空気が澄んでいて気持ちよかった。

ニカが吐き出した溜め息が空に吸い込まれていくみたいだった。

「荒治療だねー。これから先。怜にとっては」

「ゆうれいは素敵だから。絶対にとびっきり幸せになれるよ」

「当たり前でしょ」

「ニカ?」

「あんたがどんなに後悔しても、もう絶対に取り戻せないくらい、怜には最高の恋をしてもらうんだから。結芽とやってたことが恥ずかしくなってマジでバカだったって自分で笑い飛ばせちゃうくらいにね。怜は絶対に幸せになるんだから」

「うん。ニカ、ありがとね」

「なにがよ…」

「ニカみたいな親友が居てくれるから。ゆうれいはこれから先、幸せになっていくこと、怖くないね」

「………バカだよ、あんた…ほんとに」

ニカが立ち上がって、私の頭の上にぽんって手のひらを乗せた。

「結芽も幸せになんなきゃだめなんだよ。ちゃんとね」

ニカが屋上を出ていった。

泣いてしまわないようにニカがしていたように空を見上げた。

鼻の奥がツンとする。
壊してしまったものの大きさに、取り返しがつかなくなってからじゃなきゃ気づけない。

もう取り戻せない。

今もこんなに大好きだって思うのに。