「市原さん…俺のこと好きってほんと?」

「そうだよ!ずっと好きだった!柳くんくんだけが…」

「最初からゆめになんか恨みがあって周りごと陥れてやろうとかじゃなくて?」

「なんでそんな酷いこと言うの!?ぜんぶ柳くんのためだけだよ?最低な女からは私が解放してあげる。だから私だけを見て?」

「なんで俺なの」

「なんでって運命だもん。あの日、柳くんと結ばれるためにきっと私、忘れて…」

「忘れた?」

「………憶えてるよね?」

「一年のとき?二年生になってから?なんかあった?」

「中学のとき…」

ニカが「中学…?」って呟いた。
ゆうれいの様子を見て、こころちゃんの声が震えた。

「受験の日…。隣に座ってた女子に筆記用具貸したでしょ?あれ、私だったんだよ!柳くんが居てくれたから私ここに居られるんだよ!?」

「ごめん…」

「柳くん?」

「全然憶えてない」

「うそ…だよね………」

アスファルトにぺたんってお尻から崩れ落ちたこころちゃんは俯いたまま動かなくなった。

こころちゃんを見下ろしながらゆうれいが言った。
聞いたことのない、冷たい声だった。

「いつか思い出しても俺は市原さんを好きにはならない。運命も感じない。俺の人生で一番好きだったひとを市原さんは壊したから」

「そんなの私のせいじゃないじゃん…。茅野さんが招いた結果でしょ。あなた達がやってきたことでしょ!?」

「正論なんかどうでもいいんだよ!!!」

「怜…!」

「正論とか常識とか綺麗事とかどうでもいい。お前らに邪魔される筋合いもない。どんなに最低でもいい。惨めでもかっこ悪くてもいい。ゆめの中で嫌な記憶で残り続けたって消えないならそれでよかった!」

「そんなの…だめだよ柳くん…柳くんはキラキラしてて優しくて紳士的で…」

「誰のこと喋ってんの。俺はそんな人間じゃない。市原さん」

「え…?」

完全に陽が落ちて、小さい街灯だけでは少し離れている人の表情まではよく見えない。

顔を上げたこころちゃんが泣いているのかどうかもよく分からなかった。

「俺みたいなクズのために悪魔になっちゃだめだよ。俺は憶えてないから、きみも早く忘れて」

「できないっ…私は本気で柳くんだけが…」

「それとおんなじくらいの気持ちで俺はゆめじゃなきゃだめだったんだ」