「北野化学は業績が悪化していて、彼女を嫁がせる会社に救ってもらおうとしていたんだよ。だからそれが結婚の条件なんだ」

「ひどくないですか?ひどいですよ……かわいそうだわ」

「確かに気の毒だ。だが、あの子もなかなかだ。人事での仕事ぶりを見れば、わかってるだろ。あのずうずうしい根性があればやっていけるかもしれないぞ」

「信也さんったら……」

「まあ、俺が言うことじゃないな。迷惑をかけられていた君が言うべきことだろうが、君は優しいからな。そんな風には思わないんだろ?」

「彼女には彼女の言えない悩みがあったんだろうなとわかったんです。誰にも言えない悩み。そういう気持ちってわかるなって……。だから同情するんです」

 彼は私のほうをじっと見た。