「付き合ってください!」
彼の言葉の間に、涼しい風が吹く。
「ごめんなさい。私、まだ“婚約者”をつくるつもりはありませんので」
そう言い残し、プラタナスの木の間を通る。
「すご……! また九条さん告白されてる!」
「また告白断ってる……!」
「てかいつ見てもクールビューティだなぁ」
みんなは私のことを“クール”だとかいうけど、本当の私は違う。
「九条さんって、才色兼備で文武両道ですごいですわよね。“出来損ないの妹”とは大違い」
「……」
……なんて、言った? あの人。
ふつふつと湧き上がる怒りに蓋をして、その人に近づく。
「あなた、私の妹を馬鹿にしましたか?」
「く、九条さんっ、 聞こえてましたか……!?」
意地汚い笑みを浮かべていた顔は、冷や汗が伝い、怯えた表情になっていた。
……怯えるなら、最初から言わなければいいのよ。