圧倒的な強さを持つ琥珀くんが十数人を倒すのに、ものの数分もかからなかった。
この場で意識があるのは、すっかり戦意を失い尻もちをつき後ずさる黒堂と、私と琥珀くんだけ。
琥珀くんは返り血を拭い、そしてスプリングの上動けないでいる私を見た。
「遅くなってごめんな。おいで、莉羽ちゃん」
琥珀くんが、さっきまでとは打って変わり柔らかい笑みで腕を広げる。
その笑顔が琴線に触れて。
もう我慢なんてできなかった。
「琥珀くん……っ」
思わず駆け寄り、その胸の中に飛び込めば、甘いムスクの匂いに包まれて涙がじわっと滲む。
「怖かったな」
後頭部に手を回し、あやすように撫でてくれる琥珀くん。
私は琥珀くんの腕の中、ふるふると頭を横に振る。
「琥珀くんが来てくれるって信じてたから怖くなかったです」