「ゆ、楪……!」
砂煙が立つ中、琥珀くんが血だらけの男の人をその場に投げ捨てる。
それはドアの前で見張りをしていたはずの人らしく。
戦闘不能なほどぼこぼこにされたその人を見て、ざわっとあたりに動揺が走る。
スプリングの上の私を一瞥したその瞳に冷気が宿ったのがわかった。
「だれの女に気安く触ってんだ?」
「う、うるせえ……! やれ!」
黒堂の合図に合わせて、大勢の手下たちが琥珀くんに飛び掛かる。
琥珀くんは目にも留まらぬ身のこなしでそれらの攻撃を避けながら、鋭い攻撃を繰り出していく。
相手は大勢。
しかもみんな武器を持っているというのに、ひとりとして琥珀くんが太刀打ちできる人はいない。
これが裏社会を仕切るトップの力──。
恐れおののく悲鳴や、ぶつかり合う鈍い音、無数の足音が、どんどん耳の奥で遠ざかっていく。
まさに今目の前で起こっている光景だというのに、まるで現実味がなく、映画のワンシーンを見ているかのようで。