そうして夕食の準備が整った頃、突然玄関が開く音がして琥珀くんが帰ってきた。


「ただいま……ってあれ、莉羽ちゃん、エプロンなんて着けてなにしてんの」

「おかえりなさい」


私は夕食の準備をしていた手を止めて、琥珀くんの元に駆け寄る。


ネクタイを緩めながら驚いている様子の琥珀くん。

こうして顔を合わせるのは数日ぶりだけど、たしかにその顔には疲れが滲んでいるような気がする。


「さあ、座ってください」


私は琥珀くんの背中を押して、大理石のテーブルに座らせる。


そしてできたての洋風粥を運ぶ。

粥からは湯気が立ち、香ばしい匂いが漂っている。


「琥珀くんがお疲れかなと思って。疲労回復メニューを作ってみました」

「まじ……?」

「はい。お口に合うといいのですが」


なんと言っても、こうして琥珀くんに手料理を食べてもらうのは初めて。

実家にいた時は、食事はただの生きるための糧でしかなかった。

だからこうしてだれかのためだけに料理をしたのも初めて。


普段シェフが作ったものを食べている琥珀くんに、こんな庶民的な味を食べてもらうことに、本当はほんの少し躊躇いはあってけど……。

それでも少しでも琥珀くんの身体が休まればいいと、その一心で作った。