『その子は今どこに?』

『転んだ拍子に頭を打ってしまったみたいで、ケガをして一緒に運ばれてきたんですよ。部屋はえっとぉ……』


パソコンを操作し、電子カルテを探している様子の看護師。

と、不意に彼女の手が止まる。


『って、だめだめ! 勝手にお話することはできません』


……やはりか。

彼女が口を滑らせない限りは、聞き出すことができないであろうことはわかっていた。

そうとなれば。


『それより、もしよかったら連絡先とかって交換できませんか?』


頬を染めながら看護師が擦り寄ってくる。

昔からこういうシチュエーションは少なくなかったから、彼女が醸し出すそういう雰囲気に、俺は気づいていた。


……使えるものは最大限に利用させてもらうか。


俺はへらりと薄い作り笑顔を顔に浮かべた。

けれど彼女には効果てきめんになるほどの甘さも加えて。


『ええ、もちろんです。でもその前に水を持ってきてもらえませんか。すごく喉が渇いて』