私は目を伏せたまま、機械的に唇だけを動かす。

震えないよう、喉の奥に力を込めながら。


「……聞きました、東郷さんから、全部」

「そうか」

「私を保護してくれてたんですね。公安の仕事で」

「仕事?」

「今までたくさんご迷惑をおかけしてすいませんでした。私はもう出て行くので」


ぺこりと頭を下げて、出て行こうとする。

けれど。


「離すわけないだろ」


そんな声が鼓膜を揺らしたかと思うと、強い力で腕を引かれていた。


――ぼふっ。

ボストンバッグが大理石の床に落ちた音だけが、やけに耳に響いた。