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荷物なんて、あまりに少ないものだった。
それはボストンバッグひとつに収まってしまうほど。
明日から学校に行けるかわからないけれど、一応教科書や制服は荷物に詰め込んだ。
少ない荷物を纏めると、感傷に浸る間もなく、あれやあれよと言う間に黒塗りの高級車に乗せられた。
革張りの車内で、私はきゅっと肩を縮こまらせ、窓に身を寄せた。
車窓の景色は目まぐるしく変わり、見知らぬ世界へと私を強引に連れ出す。
今自分の身に起こっていることがすべて、現実だとは思えない。
私はこれからどうなるんだろう。
まるで生贄みたい。
昔、飢えに苦しむ人々は、神様への供物として人間を供えたと言う。
そして捧げられた生贄は神様に食べられてしまうんだ。