目の前に突きつけられた現実を理解していくにつれて、背筋が凍りついていく。
「愛人になるんだ。お前も知ってるだろう、新宿特区のユズリハさんのことは」
「……え……?」
――ユズリハ。
その名前を再びこのタイミングで聞くことになるなんて。
その人が私を買うなんて。
お父さんとお母さんは、ユズリハから借金をしていたってこと……?
「な、なんで、そんなこと……」
するとそこで初めて、お父さんの顔に狼狽が走る。
そして言いづらそうにもごもごと口を動かす。
「それは……その、若い女は金になるんだ」
お父さんの影で、お母さんはやっぱり知らん顔。
他人事のような眼差しで、畳を見つめている。