「ねぇ! そういえば楪さん見た?」

「見た見た! 本物を拝める日が来るなんて……。かっこよすぎてやばかった……」


女性のきゃいきゃいした声が、扉一枚を隔てた向こうのトイレから聞こえてくる。


私はというと、薄暗いお色直し部屋の中に連れ込まれ、口を塞がれていた。

後ろから抱きしめられるような体勢で壁に追いやられているため、少しでも大きな声を上げれば向こうに聞こえてしまう。


「しー」


耳元で琥珀くんが息を吐く。

それだけで身体は反応してしまい、ぞわりと背筋が揺れる。