モーゼの十戒さながらに、琥珀くんが歩くのに合わせて、人の波が割れていく。


なんでここに琥珀くんが?と疑問が浮かぶ隙間もないほどに、琥珀くんの美しさにぼうっと見惚れていた。


琥珀くんにばかり気をとられていたせいで、気づくのにも遅くなってしまった。

琥珀くんの腕に腕を絡める、女の人の存在に。


限界まで自分の身を寄せる彼女は、琥珀くんの隣にいても見劣りしないくらい美人な人だった。

私より年上――そして琥珀くんと同い年くらい。

色気があって、深紅のドレスの胸元もざっくり開いている。


だれですか、その人……。

どんな関係なんですか……。


ちくり、と胸が痛い。

もやもやとした暗雲が胸の中に立ち込める。

まるで大事な宝物を奪われたみたいな、そんな子どもっぽい焦燥感に襲われる。


なに、これ……。

わからないまま、私は琥珀くんから目が離せなくて。