ピンポーン


「あのさぁ悠、ちょっと顔貸してよ」

「…お前もっと女らしい言い方あるやろ」


日和と別れてからの週末、桜が家にやってきた。


「あっおかまいなく。アイスカフェラテでいいよ」

「何がおかまいなくやねん。お前の好きなやつじゃねーか」


桜が来てくれた理由はわかってる。

だったらせめて俺から話そう。


「日和との事やねんけど…」

「好きなんやったら追いかけなね」


意外な言葉が聞こえて思考が止まってしまった。



「悠?なんちゅー拍子抜けした顔してんの」

「…は!?うるさいわ!」


日和との事、桜は怒るだろうなって思ってたから意外過ぎてビックリした。


「どうせあんたの事やから、私がキレるとか思ってたんじゃないん?」

はい。


「幼馴染み、こえー」

「まぁあんたが思ったより元気そうやったからよかったけど、日和とは友達に戻るんか追いかけるのかハッキリしいや」


日和と友達?
戻れるのか?


もし日和が他の誰かと付き合うとか…

無理!
耐えられへん!!


「男のくせにいつまでもウジウジしんと、しっかりしいよ。日和が可哀想!」


「お前、ほんまに日和が好きやな」

「当たり前やん!大事な親友やねんから」

「桜らしー」

「悠にとって足立がそうやろ?」


彗…。


「お互い何の遠慮してるんか知らへんけど、そんな事で崩れるような関係じゃないやろ?」


あぁ、ほんまにコイツは…


「桜、ウザイ」

「はぁぁ!?今それ言う!?」

「はは!だって思ったんやからしゃーないやん」


桜が幼馴染みでほんまによかった。


「悠、やっと笑った」

「え?」

「学校でも今もずっと辛気臭い顔してさ…そうやって笑った方がいいで」


少し照れながら言う桜。
昔から変わらない真っ直ぐな性格。


くしゃくしゃ
桜の頭を撫でた。


「ちょっとー!髪型崩れるやん!」

「桜も俺にとって大切な奴やで。幼馴染みとしてな」


「……アホ」



「おまけのつもりはないけど、加藤も俺にとって大切な友達やで」

「絶対おまけやんか!今の言い方!」

「お前らその後どうなん?付き合ってんの?」

「それは…まだ……」


加藤も大変やな。


「何を迷ってるんか知らんけど、桜も前進みや」

「悠に言われたくないよ!」



こうして周りに助けてもらって自分がいるんだなって改めて感じる。


「ピアノはどう?」

「うん、マイペースにしてるよ。夏にコンクール受けるわ」

「そうなんや」


コンクールの事、親以外に話したのは初めてだった。



「頑張ってね。応援してる」

「ありがとな」


こんなに桜とゆっくり話したのは久しぶりで、昔を思い出した。


「桜、よく給食のとうもろこし残してたよな」

「なに急に!?」

「にんじんも残してたな。好き嫌いし過ぎや」

「もう忘れてよー!悠だって宿題忘れてよく居残りなってたやん」

「そんなん忘れた」


昔話も良いな。


—————・・・

「そろそろ帰るね」

「送るよ」

「大丈夫やから。まだ16時やで」


何か言いたげな様子の桜。


「どうした?」


「…私は悠の味方も足立の味方もする気はないから。ただ日和に幸せになってほしいから」


わかってるよ、桜。


「お前の言いたい事はわかってるから。ほんまにありがとうな」

「アホ悠…」


日和の幸せを願うなら絶対俺なんかと一緒にならない方がいいねん。
それは俺自身がわかってる事。


離れたくないって言ったけど、いざ離れてこれでよかったんやって少しホッとした。

だけど、離れてわかってしまった事がある。


日和がそばにいないと俺が無理なんだって事。


わがままだってわかってるけど、もう一度俺を見て欲しい。

振り向いてもらえるように頑張るしかない。


俺って相変わらず最低の最悪だな。



「あのさ、真穂って子の事やけど…」

「あぁ…キスの事か?」

「それはもういい。日和と悠で解決したんやろ?そうじゃなくて…この前日和と足立といる時に会ってさ…」

「アイツ今こっちいるもんな。何かあった?」

「んー…日和に何て言ったかわからへんけど何か言ってた。気になったから報告しとくね」

「そうか…教えてくれてありがとう」

「じゃ、帰るね!」


日和に何を言った?
…真穂にもう一度きちんと話さねぇとな。