「家で軽く話して見送る時やったんやけど、いきなり…」


私はその瞬間を目撃したんだ。


「いきなり…キスされたの?」


「……あぁ」


ズキンッ

どこかで、もしかしたら見間違えかもしれないって甘い考えがあった。
その考えに期待してるところもあった。


でも、現実はそうはいかない。


「そっか…」


「日和、近くにいたん?」

「お見舞いに行こうと思って向かってたら、ちょうど真穂ちゃんが家から出てきた所が見えたの」

「そっか…」



言葉が出てこない。
あれだけ考えたのに何一つ出てこない。


「ほんまにごめん!!急にされたとはいえキスした事には変わらへんから。何度でも謝る!!」

「ううん…仕方ないよ」


そう、仕方ない事。

鈴原くんの意思じゃなかった。
それだけでも、私の気持ちはすごく救われた。


「真穂ちゃんが好き…?」

「え…?そんなわけないやろ!俺が好きなんは日和だけやから!!」



「それなら…よかった…」


「日和、俺を信じて」


言おうと思ってた覚悟がこんな簡単に揺らぐ。

「嫌な思いをたくさんさせてほんまにごめん!だけど、俺は日和と離れたくない」



拒めない自分が情けない。



だけど、私だって鈴原くんの事は責められない。

今だって


「あのね鈴原くん、実は今…」

リビングのドアが開いた。



「足立…くん」


「はろー♪悠、体調戻ってよかった」

「彗…やっぱいたか」


え?やっぱって…

「さすが悠。気づいてたんだ♪」

「玄関にお前の靴がありゃ誰でもわかるわ」



リビングの雰囲気は最高潮に凍りつく。



「あっあのね実は金曜日から足立くん、ウチに泊まってるの」

「は…?泊まって…」

「そう♪今朝も一緒に朝ごはん食べたよねー」


「足立くん!!」

「昨日はゲーセンに行って夕方まで遊んだね。あっ!俺ん家も寄ったか」


昨日からの出来事を全て話していく足立くん。



「日和の寝顔可愛かったなぁー」


ダンッ!!!


「鈴原くん!!!」

鈴原くんが足立くんの襟元を掴んで壁に押し付けた。


「いってぇ…暴力はダメだよ、悠」

「それ以上話してみろ。ほんまに黙らすぞ」


「ちょっとわがまま過ぎるんじゃない?」

「は?」



「散々日和泣かして我慢させて、でも俺は離れたくない?…いい加減にしろよ!!彼女ひとりも守れねぇくせにキレてんじゃねぇよ!」


足立くんのこんな強い言葉…初めて聞いた。




「日和がお前の為にどんなけ泣いたと思ってんだよ!だいたいお前、金曜の夜連絡も取れなかったくせに…!都合良過ぎるんだよ!」



ドクンドクン……


足立くんから手を離す鈴原くん。



「あの…金曜日は私がほんとに迷惑をかけてしまって…それで……!!」


「ほんとはわかってるよ。体調悪くて寝込んでたんだろ?スマホの充電も切れてたんじゃね?」

「あぁ…」

「それなら仕方ねぇけど…俺はほんとに焦った。日和に何かあったんじゃないかって。必死で探した」



言葉が見つからない。



「日和を見つけた時無事でよかったって心から思った。泣きまくって目が腫れてる日和を何度見たか」


足立くんが私に近づく。



「俺は絶対泣かせない」


目を逸らせない。



「俺を見て、日和」

涙がポロッと流れた。