「あなたたちも何か食べたら?あたし、ポテトフライも迷ってるからよかったら一緒に食べへん?」


えーーーっと…



「……食べます」

「ちょっと日和!」


なんだかよくわからないけど、食べますって答えたくなった。


「ほんと!?ありがとうー♪あとで頼むね」

すごく嬉しそうに荒木さんが笑った。
ふいの笑顔に一瞬ドキッとした。




「それで、俺たちを呼んだ理由は?」

話がかなり脱線していたのを足立くんが戻してくれた。




「あっそうだった。前川さんって悠くんの彼女さんやんね?」


「あっはい、そうです」


“悠くん”って呼んだ。

親しいのかな。


胸がざわつきだした。



「タメ口でいいよ。あたしたち同い年やから」

「あっ…はい…」

同い年なんだ。それでもまだ敬語になっちゃう私。



「悠くんが去年の冬会った時に言っててん。彼女出来たって」


ドクンッ

冬?
いつ会ってたの?


私、何も聞いてない。



ドクンドクン…

鼓動が速くなる。
桜ちゃんたちに聞こえてしまうんじゃないかってぐらいに。



「あたしもね、ピアノをしてるねん。悠くんと同じ先生に習ってて」

「そう…なんだ」


やっと見えた1つの共通点。

だから関西弁なのかな?
関西出身の子?



「悠くん、ピアノうまいでしょ?」

「うん」


さっきからずっと聞こえる “悠くん” にモヤモヤする。


「やっとピアノを再開してくれてむっちゃ嬉しかった。昔からほんまに上手やから」


私の知らない昔の鈴原くんを知っている人なんだ。

桜ちゃんは幼馴染みだし、2人の関係性も知っているからもちろん何も思ったりしない。

だけど、なんだろう。
今、心の中で何かがぐるぐる回っている。



「再開したのって、前川さんのおかげなんやんね?」

「…いや、えーっと…」


「そうだよ。だから?」


私がモゴモゴしていると、足立くんが答えてくれた。



話している間にドリンクがやってきた。
でも、喉を通らない。


何を言われるんだろう。

聞くのが怖い。



「ありがとう」



「……え……」


思ってもいない言葉が返ってきた。



「悠くんがピアノを辞めた時むっちゃショックやって…あんなにうまいのにって。やけど去年先生の教室で会えてほんまに嬉しかってん」


すごく嬉しそうに笑って話す荒木さん。



「ほんまにありがとうね」


「いえ…私は何も…」 


荒木さんが頼んだドリアとハンバーグステーキがやってきた。


「ポテトフライも追加で」


本当に追加した!!



「いただきまーす」


ドリアを食べ始めた。



「いや、マイペース過ぎる…」

足立くんがぼそっと呟く。



「あのさ…ここに呼んだのってそれを言いたかったからなん…?」


「そう!どんな子か会いたかったし直接伝えたかってん」


なんともまたマイペースな返事が返ってきた。



「あっ…そうなんや…」

桜ちゃんもなんだか呆気に取られた感じになっている。



「成田さんの事も昔からずっと聞いてたから知ってるで。私の中では野蛮なイメージ♪」


「はぁ!?悠ってば私の事どんな風に話てんの!?」


荒木さんはクスクス笑っている。


さっきまでの張り詰めた空気はどこへやら。

今はすごく穏やかになっている。



「あ、足立くんかな?あなたの事も聞いてるで。マイペースな人って」

「なんじゃそら」


荒木さんの話を聞いてて思ったのは、鈴原くんは私たちの事をたくさん話してくれているという事。
それがすごく嬉しかった。



モグモグと美味しそうに食べ続ける荒木さん。

こんな細い身体のどこに入っていくんだろう。



「私らってさ、この子が食べ終わるまで待っとかなあかん感じ…?」


「俺、この光景見てるだけで腹一杯になった」


それは言えている。



「あたしの事、真穂って呼んでいいよー」


「それより、この後パフェくるやんな?」

「みんなは食べへんの?」



パフェ、あんみつ、ポテトフライまで全部完食した真穂ちゃんでした。