(もしかして、わざと私に渡すためにミルクティーを買ったのかしら……)

瀧は紅茶を飲まない。コーヒー派だ。入社して間もない頃、同期たちだけで飲み会をした際、紅茶派かコーヒー派かという話になったことがある。チラリとだけ話したそのことを、瀧は覚えているのではないかと思ったのだ。しかし、すぐに真白は首を横に振る。

(そんなわけないじゃない。あんなの、ただの偶然よ)

そう心の中で呟き、真白は紅茶の蓋を開けた。



紅茶の一件から数週間が経ち、十二月に入った。街はすっかりクリスマスに染まっており、店に入ればクリスマスソングが流れ、赤や緑の飾りが煌めいている。

「お先に失礼します」

仕事が終わり、真白はマフラーとコートを身に纏い、総務課を出る。するとすぐに瀧と出会った。瀧は「氷室さん、お疲れ」と片手を上げる。その顔は真っ赤だった。

「お疲れ様。いつからそこにいたの?」

「ん〜、十五分くらい前?」

「何でそんなに待つのよ!先に帰ればいいでしょ?風邪引くじゃない!」

「氷室さんと行きたいところがあったから」

呆れる真白に瀧は笑う。それは子どものように無邪気な笑顔だった。そして、二人は並んで歩き出す。クリスマスに飾られた街の光が、どこか眩しい。