それからヴィタとルークは毎日逢瀬し、彫刻をはさんで色んな話をした。

楽しさに満ちた時間にヴィタが心酔するのはすぐのことだった。

誰も近寄らない二人きりの空間で、ヴィタは胸を高鳴りを感じながら手を動かしていた。


「あー! ダメよ、動かないで!」


黒鉛を手にさらさらと紙にデッサンを描く。

最高の彫刻のために丁寧に、情熱的に手を動かした。

こうも先を考えワクワクすることははじめてで、手の動きはスムーズだ。

集中して黙ってしまっても、ルークは嫌気をさすことなく付き合ってくれた。

陰影一つでルークの美しさは変化し、きりがないと頭を悩ませる。

黄金の瞳に魅入られながら、ヴィタは心からデッサンを楽しみ、幸せを嚙みしめていた。



「どうして彫刻が好きなんだ?」


ある夕暮れのこと。

デッサンが完成し、大理石を掘り進める作業へと移っていた。

暗くなる前に作業を終わらせ、二人きりで敷地内の広い庭をランタンを持って歩く。

涼し気なやさしい風に髪をなびかせ、空を見上げればルークの瞳に似た輝きに目を奪われた。


「夢中になれるから、かな」


くすぐったそうにヴィタは口元に手をあてて笑う。


「嫌なことはたくさんあるけど、彫刻をしているときは何もかも忘れてしまう」


それでも求めるものは彫れないが。


「思うように彫れなくて落ち込むときもある。だけど楽しい気持ちに勝るものはないわ」


女性として慎ましさはないのか、とよく責められる。


「女のやることじゃないって。手を汚すようなことはするなと言われるの」


それだけの𠮟責を受けても辞めようとは思わなかった。

絶対に美しいものを彫るという執念がヴィタを突き動かしていた。

出来上がったときはここまで出来るんだって自信にも繋がる。

だけどまだ足りないと思って、また次へと手を伸ばした。


(だってまだ……まだ出来るはずだもの。最高の作品を出せばきっと……!)