顔をあげた先に見たものに、ヴィタの目が大きく開かれていく。


(なに? 翼が……。人ではない?)


――まごうことなき美しさの権現だ。


「ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ」


ほろ苦いコーヒーに角砂糖を溶かしたような微笑み。

夕闇と同じ色の髪に、明けの明星のように輝く黄金の瞳。

高い背丈に、顔とのバランスがとれた厚みある筋肉質の身体。

なにより背中に生えた大きな翼は白鳥のように清廉だ。


(だけどなんでだろう……)

――ほんの少し、畏怖してしまうような。

道徳に背くような葛藤に耳をさすった。


(こんなにキレイな人は見たことがない。見惚れてしまうほどに……)


だがまるで警告と言わんばかりにヴィタの心臓は鼓動を打っていた。


(ダメ。この人はダメ)


――直感がそう訴えているのに、ヴィタはうずきを止められない。


「こんばんは。君があまりに悲しそうに彫刻を見ているからつい声をかけてしまった」

「あなたは一体……」


彫刻家として憧れのやまない「天上世界」の存在。

祝福を受けた輝きに焦がれずにはいられないという
もの。

これまでいろんな美しいものを見てきたが、ヴィタの全身が震えるほどのものには出会っていない。

今まで美しいと思っていたものはなんだったのかと疑うほどに、男の麗しさは衝撃を与えた。