それはある夕暮れのこと。

退屈な勉強時間を終え、ヴィタはいつものように彫刻のため部屋を抜け出していた。


「よーし、やるぞぉ!」


男性が着るようなシャツの袖をまくり、目の前の彫刻を見上げる。

だがヴィタにはその彫りかけの石像が霞んで見えていた。

なかなか動いてくれない手元を見て、ヴィタは憂いた目をする。


「私が美しいと思うもの……」

(それを形にしてみたいだけ)


これまでいくつも作品を作ってきたが、一度もしっくりこない。

それもそのはずで、ヴィタは美しさを形にしたいと思いながら、貫くだけの衝撃はまだ出会ったことがなかった。


(私にしか生み出せない美しさってどんなもの?)


後ろめたさがなければもっと堂々と向き合えるのだろうか。

口では強気にものを言っていても、罪悪感だけは消えてくれないのだった。


「……ダメね」


美しいと思う心は男も女も同じはず。

とは言ってもしっくりこない思いはヴィタの心に迷いとなって貼りついていた。

この彫刻もまた、ヴィタにとっての美しさを表現できていない。

とてもではないが、男と同じ舞台に立てる代物ではなかった。

落ち込むことが続いており、ヴィタの手はすっかり止まってしまっていた。



「彫刻、続けないの?」

「キャッ!?」

突然空から降ってきた声に驚き、ヴィタは一歩後退る。