「……ヴィタ?」


お祭り騒ぎの品評会が終わり、夜になると昼間の盛り上がりが嘘のように静かな空間となった。

ヴィタ一人残した広場に、帰りを待っていたであろうルークが翼をはためかせ降りてくる。

その翼の数は12。

これまでヴィタが見てきた一対の翼と異なり、ようやくヴィタは顔を上げた。

(あぁ……そういうことね)

いまさら振り払えるものでもなかったと、ヴィタは嘲笑した。


「ルーク。あの丘へ私を連れてって」


光をなくしたヴィタの瞳に、わずかにルークは口を開く。

だが何も言わず、ヴィタの身体を抱き上げて空高く飛び始めた。

髪を結いあげていたリボンがほどけ、白金色の髪が波を打つ。

夜に溶け込む烏の濡れ羽色がつくる風にヴィタは目を閉じた。

それから丘にたつ大樹の下に降りたって、ヴィタは膝をつく。

無理やり生み出した笑みは頬の筋肉をひきつらせていた。


「……ダメだった」


弱々しい弦の震える音。

皮が厚くなるほどに努力した手は引っ掻き跡でいっぱいだ。


「ごめんなさい、ルーク。ごめんなさいっ……!」


さめざめと泣くヴィタの前に膝をつき、ルークはそっと抱きしめる。