「いたっ……ばあや、引っ張らないで!」


脚立を降りるやばあやはヴィタの腕を引っ張り、屋敷の中へ連れて行こうとする。

遠ざかっていく自身の作品を見つめ、ヴィタの溜まりにたまった鬱憤は叫びとなり吐き出された。


「楽しくもないのに何でよ! 女だからってなんで!!」


その叫びは誰にも届かない。

この世界で女はつまらない生き物だ。

男の許可がなければ何もできない籠の鳥。

結婚するまでは父親に、結婚後には夫に主導権が移るだけのこと。

自由なんてものは女になかった。


ヴィタが彫刻を楽しむことは、暴れ馬と化すヴィタを静めるために父親が黙認しているようなもの。

本音を言えば、ヴィタには貴族の娘として気品ある令嬢になってほしかった。

ヴィタの情熱に、諦めの領域もある。

ひと目に付かないよう、趣味で収めるようにと言われていた。

それがヴィタにとってどれだけ悔しいことか。


(私は美しいものを彫りたい。その美しさで男女関係なく魅了したい。ただそれだけなのに……)


女だからと諦めなくてはならない不条理にヴィタはいつも枕を濡らしていた。