(めげるな、ヴィタ。なんのためにここまで来た?)

女性の誇りを示すために来たのだろう?

他の誰にも実現できない美しさを証明するために来た。

女だからとバカにされてたまるか。

性別を超えた価値観を凌駕する。

美しいものを美しいと思う人間の心を形にした。


「あなたにもあの美しさが伝わることを願います」


男たちに背を向け、ヴィタは出場者の列に並ぶ。

足元を巣食われそうな恐怖に目を向けず、暁色に想いを寄せた。


それから品評会がはじまり、会場は見事な作品の連続に歓声をあげる。

彫刻への熱気は増すばかりで、ついに民が一番期待を寄せる作品の布が外された。


「なんという曲線美だ」

「なまめかしいこと。さすがは前回の優勝者」


前回の優勝者の男は目をキラリと光らせて、髪をかきあげている。

自信に満ちた様子だったが、誰も男には目を向けず石像に夢中だ。


「タイトル『棘のファム・ファタール』」


鎖に縛られた女の石像。

今にでも目を開きそうな迫力があり、女性の優美なラインが見事なものだった。

それを見たヴィタにひどく動揺が走る。


(なに? なんだろう、この気持ち)


まるで自分を見ているようだ。

過剰に唾を飲み込んで、ヴィタは思考を振り払う。


(それだけ心に響くってことよ! やっぱり彫刻はすばらしいわ!)


躍動感のある彫りはヴィタとはまた違う美しさがある。