その夜、舞踏会の会場でヴィタは人を避けて壁の華となる。

きらびやかな会場に、華やかな衣装を身にまとって音楽に合わせて優雅に踊る。

様々な香水が入り混じって酔いそうだ。

大理石や土、花の匂いが好きだ。

ここにはヴィタの考える美しさはないのだとため息をつき、足早にバルコニーへと出る。

下弦の月に、またたく星空。

ギラギラした眩しさのある会場とは真逆に、シンプルに真っ直ぐ輝く光に見惚れていた。



「一曲、踊っていただけますか?」


振り返るとそこには月明かりに照らされた翼を生やす仮面の男が立っている。

穴の開いた目元からのぞくのは黄金色。


「ルー……」


人差し指で唇を抑えられる。

穏やかに微笑む姿にヴィタは言葉を飲み込み、うつむいてしまう。

するとルークが仮面を外してヴィタの頬を包み、無理やり上に向かせた。


「逃げないでよ」

「あ……」


ぎらついた瞳にヴィタは目をそらせない。


「泣いたの?」

「泣いてない……んっ……!」


目元を擦られ、唇を親指の腹で押されてヴィタは過敏になって声を漏らす。


「なにを語れば君は僕をみてくれる?」