「そうですが……探してもお嬢様の姿が見つからないことが増えました」


その言葉にヴィタは違和感を覚える。

ヴィタは自室にいるか、彫刻を彫る場所とする庭にいるかのどちらかにしかいなかった。

彫刻のためなら意地でも飛び出す習性のあるヴィタにばあやが気づかないことはおかしいなこと。

なにせ今までばあやに見つかってばかりで、諦めの悪いヴィタに猶予をくれていたのだから。


(……ルーク?)


脳裏をよぎるは麗しき天の使い。

誰にも邪魔されることなく、ルークと二人きりで笑いあった。

昨夜、あのような別れをしなければヴィタはもう少し冷静になれただろう。

激しく打つ鼓動に胸元で手を握りしめた。


(私、どうしたいの? こんなの天使を惑わす魔女のよう)


「お嬢様」

「ん?」


ばあやが尻目に口を開く。


「悪魔に魅入られてはなりませんよ」


ゾクッと、身体が震えあがった。


「なにを言ってるの? ばあや……」


動揺に声が震える。


「あ、いや……なんでもございません。なぜ、こんなことを言ったのか……」

「そ、そう……」


全身の毛穴から汗が吹き出たよう……。

崖の上から突き落とされた気分だ。

うるさい心臓に目を瞑り、青ざめたままヴィタはメイドたちに囲まれ、身なりを整える。


(彫刻……。どうしても完成させたい。この罪の意識はなんなの?)


見えない壁を壊してしまえば、ヴィタは新たな舞台に立てる。


(何でもない。なんでもないの)


一歩を踏み出せばヴィタの望む彫刻が完成するだろう。

――なのに背徳感が消えてくれない。

じわりと、ヴィタは湿った息を吐いていた。