犯してはならない領域な気がしてヴィタは唇を噛んで目を反らした。


「……ごめんなさい。今日は部屋に戻ります」


ルークの肩を押し、ヴィタは足早に去ろうとする。


「ヴィタ……!」


逃げようとするヴィタを追いかけて、ルークの手が伸びる。


――パシッ!!


その手を振り払って、ヴィタは顔を真っ赤にして涙目にルークに振り返る。


(そんな顔しないでよ)


まるでヴィタが悪いことをしているみたいだ。

清廉潔白な天使を悪者にして、ヴィタは何事にも悪いことしか目に付かなくなっていた。


(こんなの私じゃない!)


手で口を覆い、自分を罰するかのように爪を立てていた。

自室にまで駆けこんで、周りの声をも無視してベッドに飛び込んだ。


(わからないわ。焦がれる気持ちがあるくせに、なぜこんなにも怯えているの?)


強気に生きてきたヴィタは不安定なままに気持ちを天秤にかける。

人生を注いできた彫刻への想いと、形もない警報に耳をふさいでいた。


ーーーーーーー

次の日、ヴィタは腫れた目元をこすりながら起き上がる。


「なんてこと! 今日は舞踏会だというのに!」


ばあやが慌てて濡らしたタオルを持ってきて、ヴィタの目元にあてた。


「よかった。今日はお嬢様がいらっしゃる」


安堵するばあやにヴィタは前が見えないままにクスリと笑って口を開く。


「なにを言っているの? 私はいつもいるじゃない」