逃げ隠れをしたい気持ちと、心臓がドキドキすることに板挟みだ。


「その手のどこが汚れてるって?」


ぎゅっと握りしめられ、唇が手の甲に落ちる。

伏せられたまつ毛の長さに魅せられたかと思えば、上目に見つめられることに頬を染めた。


「こんなにも強い愛情を受けているだなんて……彫刻に嫉妬してしまう」


なんと甘ったるい言葉だろう。

これまでの屈辱さえどうでもよくなるほどに、甘さに唾をのむ。


「……ルークはどうして、私の前に現れたの?」

「ん?」


筋張った大きな手がヴィタの頬を包み、心臓が跳ねあがって目を反らす。


「私、変なの。あなたをキレイだと思うと同時に怖いって気持ちが――」



――瞬間、唇が塞がれる。

身体がぐっと引き寄せられて、胸やお腹がソワソワした。

唇が離れて、見つめられたままにルークの指先がヴィタの鎖骨をなぞった。


「手を伸ばしてよ」

「――っ……!」

「君が好きなんだ。それこそ出会うよりずっと前から」

「そ、そんなのおかしいわ」


(だってルークは天使よ。人間を好きになるはずがない)


それに出会う前からとは、いったいいつのことを指すのだろう?


(私はルークを知っている? そんなはずは……)


「ダメだよ、ヴィタ。もう離さないと決めたんだ」


それならばこの警報はなんだ?

まるで危険が迫っていると思い込み、その思い込みを裏付ける不審な点を探しているようだ。