「……た、すけて……誰……か、誰か……っ、助けっ……んんっ!?」


一瞬、ほんの一瞬だった。

瞬間移動?って並みの速さで私の目の前に来た宮腰くんが、私の口を手で押さえて塞ぎ、壁に優しく丁寧に私の背中をトンッと押し付けた。こんな至近距離だからか、長い前髪から少し宮腰くんの目が見えて、その瞳はとても優しいもので、人を殺めてしまう人には到底見えないし思えない。

でも、怖い──。


「ごめんね、怖がらせるつもりはないんだ。まあ、篠宮さんなら追って来ちゃうだろうなとは思ってたけど……あの時と変わってないのなら……ね」


『あの時』……?

とにかく、こうなったのも元はと言えば私にも原因があるし、きっと宮腰くんは私の為にこんなことをしたんだと思う……かなり異常ではあるけど──。


「大きな声出さないって約束できるなら手、離してあげる」


──── お願い……どうか私を殺さないで。


私はコクコク頷いた。

そもそも大きな声を出そうにも、きっとこの緊張感でどうせ出ない。


「いい子だね」


宮腰くんの手が私の口から離れて、宮腰くん自体も私から少し離れた……と思ったらまた少し距離を詰めて、私の頬に少し震えている手を優しく添えてきた。まるで『われもの』を扱うよう丁重に──。


「君が無事で本当に良かった」


宮腰くんの手がとてもあたたかくて、その指先から優しさが溢れ出し、私の心が宮腰くんの優しさで包まれていくような、とても不思議な感覚に陥った──。