東条くんのネクタイがまぶたに押し当てられた状態で、私は鍵盤に手を伸ばす。

 白い鍵盤を、指の腹で流れるように撫でてみた。

 懐かしむように、黒い鍵盤を指でつまんでみる。


 「ピアノに触れることができたな」

 「……うん」

 「よく頑張った。歌夜はえらいな」


 やめてよ、褒めないで。

 ハートが撫でられているようなくすぐったさに襲われちゃう。

 
 ……はぁ、気づきたくなかったな。

 東条くんの言うとおりにすると、ワイルドスイートな声で誉めてくれることも。


 『もっと東条くんに命令されたい』

 『もっともっと甘い声で褒められたい』

 マゾっ気でできた恥ずかしい欲望が、私の中に存在していたことも。