「言ったよな俺、歌夜の教師になるって。俺の言うことは聞くように」


 確かに旧校舎に連れ去られる前に聞いたよ。

 世界史よりも今の私には他に習得しなきゃいけないことがあるとか、アルファと恋する方法を教えてくれるとかなんとか。

 聞いたけど……


 あれ? なんだろう?

 体が急にだるくなってきた。

 脳がぼーっとし始めて、椅子に両手をついていないと体が支えきれないけど……


 もしかして私、アルファのフェロモンに充てられてる?


 あり得るよ。

 目隠し用に私の顔に巻き付いているネクタイには、東条くんのフェロモンがしみこんでいるはずだし。

 この脱力感、ヒートの初期症状と似すぎているもん。


 まるで媚薬が体内に回ったかのよう。

 アルファフェロモンを嗅いでいるだけで、脳が溶けそうになる。


 春風に揺られる雲の上で、ゆったりまったりお昼寝をしているような。

 自分の推しに愛されているような。

 心地よくて甘々な感覚に、心臓までもがとろけてしまいそうになるんだ。