私は今、大嫌いなピアノと対峙をしている。

 本当は瞳に映したくない代物。

 地球上から消え去って欲しいくらい恨めしい。


 そんな酷いことを思ってしまうのは

『なぜピアノがうまくならないの!』

『結果を出せない歌夜なんか、お母さんの子じゃない!』

ピアノに意識が向くだけで、ヒステリックに泣き叫ぶお母さんの顔が、フラッシュバックされてしまうからだ。


「もう二度と、大好きになんかなれないよ……」

 ピアノのことも、お母さんのことも……


「歌夜、座って」


 鍵盤の前に置かれたイスに?


「……そっ、それは」

「早くしろ」

「ひゃっ!」


 鍛え上げられた腕に抱かれるように、強引に椅子に座らされた私。

 私の脳、細胞、肉体すべてがピアノを拒絶してしまう。

 黒い魔物のそばから、一秒でも早く離れたくてたまらない。


 視界をつぶそうと目を強くつぶっても、ピアノの椅子に座っているというだけでダメ。

 過呼吸のよう、うまく息が吸えなくなってしまう。