私の目の前に立ち、私の右胸に垂れるポニーテールの毛束を指ですくったと思ったら、いきなり顔を近づけてきて

 「……かや」

 頬にキスをしそうな至近距離で、私の耳にワイルドな甘声をこぼした。


 「歌夜が大嫌いなもの、俺が大好きに変えてやる」


 ドキドキでハートが悶え狂う私なんてお構いなし。

 ギュっと私の手首を掴み、長い足を前に進めている。



 引っ張られながら私が連れてこられたのは、グランドピアノの前。

 もう私の手首には、彼の強引な体温は残っていない。

 立ち入り禁止の旧校舎に置いてあるピアノなのに、なぜホコリ一つなくピカピカなんだろう?


 首をかしげずにはいられないくらい艶っているグランドピアノ。

 その屋根を東条くんは開き、突上棒(つきあげぼう)で固定。

 鍵盤の蓋を開け、鍵盤を保護するためにかけられていた赤いフェルト布を取ると、そばの棚に布を置いた。