「やっぱりまだ嫌いなんだな、ピアノ」


 俺様総長の声帯とは思えないほどの、せつな声。


「克服しろ、母親のこと」


 温かい手が、戸惑う私の後頭部に沈み込んできて

「克服?」と疑問符を浮かべながら、私は視線を東条くんに絡める。


「もう一度聞きたい」

「なにを?」

「歌夜の音」

「私の……音?」


 彼はまるで、昔を懐かしんでいるかのよう。


「3年たっても俺の耳から離れないのは、ピアノより歌夜の泣き声の方だけど」


 東条くんはうっすらと笑みを浮かべると


「誰にも見られないところでしか泣けないその強がりぐせ、まだ健在だろ? 俺だけに甘えろよ」


 優しさを込めたような手で、私の頭を撫で始めた。