その時,皇子と言えば2人しかいなかった。

ハリエルの他に,当時5歳の第二皇子。

5歳の子供が顔も知らない平民に暗殺者など送るはずもない。



『……ハリー?』



呆然とした呟きを拾った王弟は,そこから聞いてもいないのに饒舌に明かすのだ。

それまでの私の人生をボロボロに崩す,決定的な一言を。



『そ,そうだ! アリエル·アーシア嬢,あなたはハリエルの好意を知りながら裏切った。可哀想な甥は,怒りと悲しみに大層憤慨しておる!』



ドキンと,心臓を握りつぶされたような心地がした。

あの約束を忘れた訳じゃない。

でも,まさか,ハリーはそんな。

目の前の男は,今の王室ととても仲が深いとされる王弟。

ハリーが私の名前を明かすことも,あの夜の話をそんな王弟にすることも,残念ながら何もおかしなことだとは思えなかった。