『ちょっと,まってあなた! あの子に聞こえるでしょう』



突然の母の声。

驚いて扉に近づけば,それを上回る父の声がした。



『うるせぇ! 見たかあいつの表情を! 自分は守られて,半年も顔を出さない薄情娘のくせに,今更のこのこと』

『仕方ないでしょう。何も知らないのよ。帰っても来るわ。自分の家だもの。
知らせないって言ったのは,あなたじゃない。頭を冷やしてよ』



なんのこと?

そんな疑問より先に湧いたのは,父の怒りとも言える感情に触れた恐怖だった。



『お金がないのは借金のせいでしょう。あの子は関係ないじゃないっ』

『そうだ,"俺の作った借金"だ。つまり,俺のせいだって言うのか?!』

『そうは言ってないでしょう! 最近,この頃おかしいわよあなた。次の取り立てもなんとかなるって言ってるでしょう?』



お金。

口の中で形を作ると,両親がなんの話をしているのか分かった。

私は既に,19になろうとしていた。